国内で242店舗(2025年2月1日現在)のホームセンターを展開する株式会社カインズ。同社は、顧客体験の向上を目指してソニーの屋内行動分析プラットフォーム「NaviCX(ナビックス)」を採用し、500万人以上のユーザーを擁するカインズアプリに店内測位機能を搭載しました。顧客は店舗内における自分の位置が把握できるようになり、買い物時の利便性が向上しました。現在同社では、NaviCXから得られるデータを通じて、さまざまな施策を計画しています。 PDFダウンロード
【1.課題・背景】お客さまの欲しい商品が“容易に見つかる”体験の実現へ
「世界を、日常から変える。」をビジョンに、日本独自とされるホームセンターの業態を確立したカインズ。設立から30年を迎えた2019年3月に「第3創業期」として、設立以来初となる3カ年の中期経営計画「PROJECT KINDNESS(プロジェクト カインドネス)」を策定し、リアル店舗の強みにデジタルテクノロジーを掛け合わせた“IT小売業”への転換を図っています。
フォーマット開発事業部 事業部長 兼 デジタル開発推進統括部 統括部長の水野圭基氏は「デジタル技術を駆使してお客さまの買い物体験をより良いものとし、単に店舗数を拡大するだけでなく、既存店を『高収益モデル』に転換することが狙いです」と語ります。
デジタル戦略の目的のひとつである「ストレスフリー」については、お客さまの欲しい商品が“容易に見つかる”体験の実現を目指しています。広大な店舗面積を持つカインズの場合、店頭における接客時の問い合わせの7~8割が「あの商品はどこにあるのか?」というものでした。店舗の売場面積は1,000㎡から20,000㎡、大型店舗であればサッカーコート2~3面分の面積があり、取り扱っている商品数は最大12万アイテムに及びます。そこで同社はスマートフォン向けの「カインズアプリ」に測位機能を搭載し、買い物時の利便性向上を図ることにしました。
「当社には、カインズアプリを利用するユーザーがすでに500万人以上存在しています。このアプリへの測位機能の搭載を通じて、商品位置とお客さまの位置の双方を表示すれば目的の商品が見つけやすくなり、ストレスフリーな買い物体験が提供できるのではないかと考えました。同時にこれまで私たちが把握できていなかったお客さまの店内行動が把握でき、定量的なデータをもとに次の価値創造を検討することにもつながる一石二鳥の取り組みになると考えました」(水野氏)
【2. NaviCXの採用理由】導入準備のコストや期間が抑制でき、店舗側への負担も少ないNaviCXを採用
これまで同社は先行する海外小売流通企業での採用事例などを視察しながら、顧客行動を把握するソリューションの探索を続けてきました。その過程でソニーから「NaviCX」の提案を受けて採用を決めました。NaviCXはソニー独自の測位技術を使用し、店舗や施設内のお客さまやスタッフの行動データをリアルタイムに取得・分析するものです。スマートフォンの各種センサーとAIを活用したPDR(歩行者自律航法)をベースに、店舗内に設置した発信機(ビーコン)、測位対象場所に存在する地磁気を組み合わせ、より高精度な測位を実行します。これにより、「位置」「滞在時間」「動線/経路」に加えて、お客さまの「向き」の情報まで取得できます。
「これまで当社では、来店するお客さまの店内行動を把握する手段を持っていませんでした。最初は動作捕捉カメラの導入や、各種センサーの設置などを検討したものの、初期導入コストと運用保守コストの負担は大きなハードルとなります。全店舗への導入を目指していたことから、コストがかかる他のソリューションでは無理がありました。特別なハードウェアをほぼ使用せず、当社が保有するデータと連携できるものを探している中で、導入準備のコストや期間が抑制でき、店舗側への負担も少ないNaviCXに出会いました。店舗に導入するための必要な作業手順も明確です。また、自社で店舗導入作業ができない場合でも、ソニーのパートナーへ導入作業を委託することもできます。国内企業のソニーであれば、レスポンスが早く、サポートもしっかりしているので、安心感がありました」(水野氏)
NaviCXの導入を決めた同社は、2022年6月よりパイロット店舗6店において、来店されるお客さまの買い物体験を向上させる店内販促施策などへの活用を視野に入れた実証実験を実施。その結果を踏まえて全店舗への展開を開始し、2025年1月時点で223店舗への導入が進んでいます。大型店舗の朝霞店の場合、ビーコンだけを使い屋内測位を実現しようとすると数百台は必要なところが、わずか30台の設置で済みました。
【3.導入効果】ストレスフリーな買い物体験と、新たな顧客価値の提供
500万人以上が利用するカインズアプリにNaviCXを活用した測位機能を新たに実装し、店舗のマップ上にお客さま自身の位置をリアルタイムで表示することで、現在地と目的の商品がある売り場との位置関係が一目でわかるようにしています。これにより、お客さまは商品の場所、在庫、詳細情報までをアプリ上で把握できるようになり、ストレスフリーな買い物体験を実現しています。
さらなる効果として、同社の店舗DXを大きく前進させることになるのが、買い物行動の把握による新たな顧客価値の提供です。これまで、お客さまがどのように店内を回遊しているのか、店内のどこに人が集中しやすいのか、店内をどの程度移動しているのか、レイアウトは適性か、施策を打った後の行動に変化があるかなどは、現場で人が目視で調査する必要があり、定量的な把握ができませんでした。
NaviCXであればお客さまの店内回遊動線、滞在時間、店内マーケティングに対する反応などを可視化できます。これらと同社が保有しているデータと突き合わせることで、買い物順序の数値化、多箇所展開の有効性確認、ゾーニングや棚割りの適正化などが可能になります。その結果、新規カテゴリーの購買や関連購買などが増え、買上点数の増加につながることが期待できます。
「NaviCXで得られるデータを通じて、施策の『Before』『After』を把握し、PDCAサイクルを回すことが可能になりました。これまでは、効果測定の有効な手段がありませんでしたが、NaviCXが収集する情報をもとにさまざまな施策にトライできると考えています」(水野氏)
【4.今後の展望】リアルマーケティングツールとして、お客さまへの提供価値最大化を目指す
カインズでは、店内のお客さまへリアルタイムに情報発信できるNaviCXの特性を活かし、リアルマーケティングツールとしての活用範囲を拡大していくことを計画しています。
「NaviCXを通じてアプリを起動しているお客さまがあらかじめ設定された特定エリアに立ち寄ると、キャンペーンなどのお得情報や商品情報をプッシュ通知で配信できるようになりました。今後は、NaviCXによる店内行動データと当社の購買データを組み合わせ、お客さま一人ひとりに合わせたきめ細やかなコミュニケーションを実現し、提供価値の最大化を目指します」(水野氏)
事例のポイント
<課題> ・デジタル技術を活用した買い物体験の向上 ・既存店の「高収益モデル」への転換
<解決策> ・「カインズアプリ」への測位機能の搭載 ・顧客行動データと自社データの付け合わせによる改善施策への活用
<導入効果> ・ストレスフリーな買い物体験の実現 ・定量的なデータに基づく各種施策の意思決定
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株式会社カインズ
業種:小売業
従業員数:13,651名(2024年2月末)
URL:https://www.cainz.co.jp/
事業内容:ベイシアグループの中核企業として、ホームセンターの『カインズ』を全国に展開。商品の企画・開発・品質管理・物流・プロモーション・販売までを自社で一貫して手がけるSPA(製造小売)企業として成長を遂げている。売上高は5,423億円で、業界売上高ランキングは1位(2024年2月末)。
※ 内容は、記事作成時(2025年2月時点)のものです。