警備業界は長年、慢性的な人手不足に悩まされています。さらに、警備員の高齢化と若年層の採用難が状況を悪化させています。
警察庁生活安全局生活安全企画課の「令和2年における警備業の概況」によると、警備員の構成比率は65〜69歳が全体の14.8%、70歳以上が17%となっており、60歳以上の雇用割合が30%以上と、その他の業種に比べて非常に高くなっています。
出典:警察庁生活安全局生活安全企画課「令和2年における警備業の概況」
人手不足の原因
警備業における人手不足の原因はいくつか考えられます。まず、待遇や労働条件の厳しさです。多くの警備員は長時間労働や不規則な勤務シフトに直面しており、これに見合った報酬が得られていないケースが少なくありません。
次に、警備業務は体力的に厳しい面があります。長時間の立ち仕事や屋外での勤務など、身体的負担が大きい仕事内容が多く、特に若い世代にとっては敬遠される要因となっています。
また、キャリアパスや将来性への不安も大きな問題です。多くの警備員が、この業界でのキャリアアップや長期的な展望を描きにくいと感じています。昇進の機会が限られていたり、スキルアップの道筋が明確でなかったりすることが、人材の定着を難しくしています。
さらに、警備業に対する社会的評価が低い傾向にあることも、人手不足の一因となっています。「単純労働」や「誰でもできる仕事」といったイメージが根強く、職業としての魅力や重要性が十分に認識されていません。このようなネガティブなイメージは、特に若年層の採用を困難にしています。
警備員の人手不足の原因については以下の記事でも詳しくご紹介しているので合わせて確認してみてください。
関連記事:警備員の人手不足の原因は?課題と人手不足解消の対策を解説!
警備業界では、警備員の教育・研修が十分に行われていないケースが増えています。その背景には、慢性的な人手不足や即戦力を求める現場の事情、研修制度の整備不足などが関係しています。
警備業務は、現場ごとに求められるスキルや対応が異なり、基本的な警備技術に加えて、緊急時の対応力や顧客対応力も求められます。しかし、教育・研修が不十分な場合、必要なスキルを身につける機会が不足し、現場での業務遂行に支障をきたす可能性があります。
その結果、スキルが不十分な警備員を配置せざるを得なくなり、業務品質の低下やトラブルの発生リスクが高まります。特に、施設警備や交通誘導警備、イベント警備など、迅速かつ適切な判断が求められる場面では、警備員のスキル不足が大きな問題となります。
教育・研修が難しくなっている原因
新人警備員が入社した際、警備員指導教育責任者による、20時間以上の教育が義務付けられています。また、現職の警備員についても毎年10時間以上の教育を実施しなければなりません。
これは警備員の知識や技術の維持・向上を目的としたものですが、教育のための時間を確保することが難しくなっています。特に、人手不足が深刻な現場では、教育のために十分な時間を割く余裕がなく、結果として研修の形骸化や未実施のケースも発生しています。また、人手不足に伴い、研修を実施する資格保有者が少なくなっていることも、この問題に拍車をかけています。
警備業界では、正社員・契約社員・アルバイト・日雇いなど、さまざまな雇用形態の従業員が働いています。それに伴い、給与の計算方法や支払いサイクルが異なるため、管理が非常に複雑になります。
例えば、月給制の社員 と 時給制や日給制のアルバイトでは計算方法が異なり、さらに警備員によっては日払い・週払い・月払いなど、支払いのタイミングが異なることもあります。そのため、給与計算のミスが発生しやすく、管理者の業務負担が増加します。
また、警備業は現場ごとに業務内容や労働時間が異なるため、残業代や深夜手当、休日手当などの計算も個別に対応する必要があり、バックオフィス業務の負担が大きいのが実情です。
労務管理が複雑になる原因
多くの警備会社では、出勤・退勤の記録を手書きのタイムカードや紙の報告書で管理しているケースが依然として存在しています。また、シフト管理についても、Excelやホワイトボードなどを活用した手作業での管理が一般的です。
このようなアナログな方法では、勤務時間の計算ミスや集計作業の手間が発生しやすく、給与計算にも多くの時間を要します。特に、警備業では日勤・夜勤・交代勤務などの複雑なシフトパターンがあるため、手作業による管理は非効率的です。
これらの問題の解決策としてシステムの導入などのDX化がありますが、ご紹介した人手不足などの問題で、DX化を推進するリソースを捻出するのが難しくなっています。DX化の遅れも警備業界の大きな課題となっています。
警備業は、「体力的にきつい」「長時間労働が当たり前」「過酷な環境で働く必要がある」など、労働環境が悪いというイメージが根強く残っています。
特に、立ち仕事が中心の業務や、長時間勤務、深夜勤務などが多いことから、厳しい労働環境を想像されがちです。また、一部の警備会社では、未だに旧態依然とした勤務体系が続いており、労働環境の改善が進んでいないケースもあります。
労働環境が悪い理由は?
警備業は夜勤や土日祝日の勤務が多く、シフトも不規則になりがちです。一般的な会社員と異なり、固定の休日を確保しにくいため、生活リズムが乱れやすく、プライベートの時間が取りにくいことが課題となっています。
また、勤務時間内に休憩は設けられていますが、現場の状況によっては十分に休憩を取れないこともあります。また、警備員の交代要員が少ない現場では、長時間拘束されるケースもあり、疲労が蓄積しやすい環境です。
建設現場や交通誘導など、危険が伴う業務も多く、特に悪天候時の屋外勤務やトラブル対応が必要な場面では、精神的・肉体的な負担が大きくなりやすいです。このような複数の理由が、警備業の労働環境を悪くさせてしまっています。
ご紹介したように、警備業界はさまざまな課題を抱えています。このような課題を解消するには、以下のような対策を実施する必要があります。
警備業界における労働環境の改善や人材定着率の向上を図るためには、働きやすい環境づくりと制度の見直しが不可欠です。以下のような取り組みを進めることで、警備員の負担を軽減し、業界全体の魅力を向上させることができます。
柔軟なシフト制度を導入する
従来の固定シフト制に加え、ライフスタイルに合わせた柔軟なシフト制度を導入することで、警備員の負担を軽減できます。例えば、週3日勤務や日勤・夜勤の選択制を取り入れることで、働き方の選択肢が増え、長期的に働きやすい環境を整えることが可能です。
短時間勤務を採用する
フルタイム勤務が難しい人材のために、短時間勤務やスポット勤務を取り入れることも効果的です。例えば、4時間勤務や週1回の勤務が可能なシステムを導入することで、副業希望者やシニア層、子育て中の方でも働きやすくなり、警備業への新規参入のハードルを下げることができます。
給与アップを行う
警備業の魅力を向上させるためには、適正な給与水準の確保も重要です。例えば、夜勤手当や資格手当の増額、経験年数に応じた昇給制度の強化などを実施することで、警備員のモチベーションを向上させることができます。また、優秀な人材を確保するためにも、業界全体の賃金水準の見直しが求められます。
明確な評価制度やキャリアパスを提示する
「どれだけ頑張っても評価されにくい」と感じる警備員が多いため、明確な評価基準とキャリアパスを設定することが重要です。例えば、勤続年数やスキル習得に応じた昇格制度の導入や、管理職や指導教育責任者などのキャリアアップの道を明示することで、将来の展望を持ちやすくなります。
福利厚生を充実させる(資格取得の推進なども)
働きやすい環境を整えるためには、福利厚生の充実も欠かせません。例えば、資格取得支援制度を設け、警備員指導教育責任者や防災関連資格の取得をサポートすることで、スキルアップを支援できます。また、健康管理やメンタルケアのために、健康診断の充実や休暇制度の拡充などを進めることも、長く働ける環境づくりにつながります。
このように、環境や制度の見直しを行うことで、警備員の働きやすさを向上させ、人材の定着率を高めることが可能になります。特に、柔軟なシフト制度や短時間勤務の導入、給与の適正化、キャリアパスの明確化、福利厚生の充実などの施策を推進することで、警備業界全体の魅力を高め、より多くの人材が安心して働ける環境を整えることができます。
警備業界の課題の多くは、人手不足に起因しています。人手不足が解消されれば解決できる問題も多くなるため、採用手法を見直してみましょう。
求人露出を増やす
警備業の求人は、特定の求人サイトや折り込み広告などに限られることが多いため、より多くの求職者に認知してもらうためには、求人の露出を増やすことが重要です。具体的には、以下のような施策が効果的です。
・複数の求人サイトに掲載し、ターゲット層ごとに最適なプラットフォームを活用する
・SNSや動画広告 を活用し、警備の仕事の魅力や実際の働き方を発信する
・ハローワークや自治体と連携 し、シニア層や再就職希望者への訴求を強化する
ターゲットを明確にする
より効果的な採用を行うためには、ターゲットを明確に設定し、それに応じた採用戦略を展開することが重要です。ターゲットに合わせて、以下のように訴求することで、求める人材からの応募を増やすことができるでしょう。
・20〜30代の若年層向け:「キャリアアップ可能な警備の仕事」「未経験でも安心の研修制度」
・シニア層向け:「健康的に働ける」「無理なくできる短時間勤務の警備」
・女性向け:「施設警備や受付警備など、女性も活躍できる警備の仕事」
採用サイトを立ち上げる(採用ブランディング)
求職者が企業情報を調べる際、採用専用サイトがあるかどうかは信頼性に大きく影響します。採用HPを立ち上げることで、求人媒体だけでは伝えきれない詳細な情報を提供でき、応募意欲を高めることができます。予算やリソースを確保できる場合は、以下のコンテンツを盛り込んだサイトを立ち上げましょう。
・仕事内容の詳細(1日の流れ、業務内容など)
・社員インタビューや動画コンテンツ(現場のリアルな声を伝える)
・キャリアパスの紹介(未経験からの成長モデルを提示)
・待遇や福利厚生の明示(他社との差別化を図る)
また、採用サイトの立ち上げに合わせて、ブランディングを行うのも効果的です。警備業の新しいイメージを打ち出したり、悪いイメージを払拭したりする効果も期待できます。
環境や待遇を見直し、採用サイトやブランディングに反映する
採用活動を成功させるためには、実際の労働環境や待遇の改善も必要不可欠です。求職者が求める条件を取り入れ、改善した内容を採用コンテンツに反映することで、より魅力的な求人情報を提供できます。以下のような環境や待遇の見直しを行い、採用サイトやブランディングのアピールに活用しましょう。
・給与の見直し(資格手当・夜勤手当の増額など)
・働きやすいシフト制度の導入(短時間勤務や柔軟な勤務体制の整備)
・福利厚生の充実(資格取得支援、健康診断の強化など)
警備業界は、DX(デジタルトランスフォーメーション) の導入が遅れている業界のひとつです。しかし、DXを推進することで、業務の効率化や自動化を実現し、人手不足や労務管理の課題を解消することが可能です。特に、AIやロボット技術、リモート監視システム、業務効率化システムの導入によって、省人化やコスト削減、警備の質の向上が期待できます。
AIやロボットの導入
警備業務の効率化を進めるために、AIを搭載したロボットやドローンを導入し、巡回業務を自動化する動きが進んでいます。
これまで警備員が行っていた巡回警備を、AIを搭載したロボットやドローン が代行することで、人手不足の解消と警備の精度向上が期待できます。特に、大型施設や広範囲の警備が必要なエリアでは、ロボットがリアルタイムで映像や異常を検知し、警備員へ通知する仕組みが有効です。
ロボットやAIシステムを導入することで、警備員の配置人数を最適化し、人件費を削減できます。また、AIによるデータ分析を活用することで、防犯対策の強化やリスク予測の精度向上も可能になり、より安全な警備体制を構築できます。
監視カメラによるリモート化
遠隔監視システムを活用することで、従来の常駐警備に頼らず、リモートでの警備体制を構築することが可能です。
高性能な監視カメラとAI解析を組み合わせることで、警備員が現場に常駐しなくても、異常をリアルタイムで検知し、必要に応じて警備員を派遣する仕組みを構築できます。これにより、少人数での警備運用が可能になり、コスト削減と警備の質の向上が期待できます。
また、クラウドと連携することで、警備員がスマートフォンやタブレットから遠隔で監視映像を確認できるようになります。このような技術を活用することで、複数の現場を少人数で監視できる環境を構築できるでしょう。
業務効率化システムの導入
警備業務の効率化には、勤怠管理やシフト管理、報告業務をデジタル化するシステムの導入が欠かせません。
警備員の出退勤の記録をデジタル化し、シフトの自動調整や報告業務の簡素化を実現するシステムが増えています。これにより、警備員の勤務状況のリアルタイム管理や、シフトの最適化による無駄な労働時間の削減が実現できます。
手作業で行われていた勤怠管理や給与計算をシステム化することで、事務作業の負担を削減し、管理の正確性を向上させることができるでしょう。
ロボットやAI、監視カメラの導入にはコストがかかりますが、警備記録・勤怠管理システムは比較的低コストで導入しやすいものが多いです。何からはじめていいかわからないという方は、システムの導入を検討してみてください。
ソニーのワンタッチ警備記録システム「パトログ」は、警備業務の効率化に効果的なシステムです。巡回ルートにカードを設置し、スマホでタッチ&タップするだけで簡単に警備報告が完了。また、警備業務のさまざまな業務を効率化する、以下のような機能も搭載しています。
・スマホをICカードに「タッチ」するだけ簡単なユーザーインターフェース
・どんな場所にも設置可能。現場に必要なものはICカードだけ
・勤怠(上下番)報告、記録、管理など警備会社の手間を削減する勤怠管理システム
・クラウド上でデータ共有ができ、リアルタイムで状況を把握できる「リアルタイムモニタリング機能」
・管理者の負荷を軽減する「自動アラート機能」
データをクラウド上で共有でき、警備員の状況をリアルタイムで確認できるのもポイント。記録したデータを請求書や巡回報告などの作成に活用することも可能です。上下番などの警備業界向けの勤怠管理システムも搭載しており、勤怠(上下番)報告、記録、管理の手間を大幅に削減できます。警備業務の効率化を検討している方は、導入も設置も運用も簡単な、ソニーのワンタッチ警備記録システム「パトログ」の導入をご検討ください。
製品情報:ワンタッチ警備記録システム パトログ
警備業界は、人手不足や警備員のスキル不足、複雑な労務管理など、さまざまな課題を抱えています。このような課題解決のためには、今回ご紹介したような施策の導入が不可欠です。とはいえ、すべての課題解決を同時に進めるのは、リソースの面でもコストの面でも難しいでしょう。優先度の高い問題から取り組み、段階的に自社の課題を解決していきましょう。